先日、長年仕事でお付き合いさせて頂いていたTさんの告別式に参列した。
最初の仕事から14年間の間に、ガイドブック3巻、新聞連載を纏めたもの1冊、
学会研究誌2冊の計6冊に関わらせてもらった。
営業部を離れ、制作部に移ったこの数年間は直接お会いすることが無かったが、
「またこんな本を作ろうと思っている」「原稿が用意できたから」と、
引き継いだ担当営業ではなく、僕に直接電話をくれることも度々あった。
出版文化賞を頂いた時は、記念パーティーにも呼んで頂いた。
ここ数年、検査入院を何度か繰り返しているという噂は聞いていた。
それでも今年9月になって、以前出版した研究誌にその後の原稿を加えて
下巻とする仕事を頂いたので、急にこんな事になるとは思っていなかった。
本文の校正が返った時、まだ入稿していなかった表紙カバー用の写真を頂いた。
峠に数体のお地蔵さんが並んでいる写真だった。
入院されていて、もう随分容態が悪いと聞き、急いでカバーをデザインした。
上巻が渋い色合いだったので、明るい目で2案作り、先週の火曜日に病院に
持って行くというので、お見舞いがてら同行しようと思っていた。
ところが校正が早く仕上がったのと、火曜日は仏滅だったため、
気を利かせた営業が前日に持って行き、それはかなわなかった。
そして、その本が印刷・製本され、仕上がる前にTさんは亡くなってしまった。
表紙やグラビアデザインの校正をお持ちした時、出来上がった本を納品した時、
いつも穏やかな表情で、「うん、いいね。」と言って下さった。
最後の原稿を頂いた時にも、「デザインは〇〇さんにおまかせで。」と
おっしゃっていたと聞いた。仕事でそんな風に言ってもらう事は滅多にない。
大した事も出来ないのに、そう言ってもらえるのはありがたい事だ。
告別式場の入り口に、愛用のリュックと帽子、そして最後の本を含む7冊の著書が
展示されていた。
それを見た時、この関わらせて頂いた仕事がTさんにとって
どれだけ意味のあるものだったかを知り、
同時に、自分の中で思い出として大きく心に残っている事に気付き涙が溢れた。
日々の仕事とは、とかく「やらされているもの」と思ってしまいがちだが、
そうではなく本当に「させて頂いているもの」だという事を実感した。
この気持ちを忘れてはならないなと思った。